東京地方裁判所 昭和46年(ワ)3014号 判決 1972年11月01日
原告 大木國友
被告 富国生命保険相互会社
右代表者代表取締役 古屋哲男
右訴訟代理人弁護士 向山隆
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金二〇〇万円および昭和四七年から昭和五四年まで、八回にわたり、毎年一二月三一日までに、金五〇万円ずつを支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告の亡妻大木静子は、昭和四五年七月六日、被告との間において、次のとおりの生命保険契約を締結した。
(一) 名称 家族災害保障付特殊養老保険
(二) 被保険者 大木静子
(三) 保険金受取人 被保険者、同人が死亡した場合は原告
(四) 保険期間 昭和四五年七月六日から昭和七五年七月五日まで
(五) 保険金額 金一〇〇万円
(六) 家族年金 被保険者が、右保険期間中に、死亡しまたは廃疾状態になった場合には、被告は、被保険者の家族に対し、右保険金のほかに保険金額の五割相当の金額を、一〇年間、家族年金として支払う。
2 被保険者大木静子は、昭和四五年一一月一一日、死亡した。
よって原告は被告に対し、右保険契約に基づき、保険金一〇〇万円および一〇回にわたり交付を受ける家族年金のうちすでに弁済期の到来した二回分一〇〇万円の合計金二〇〇万円ならびに右家族年金の第三回の支払い年である昭和四七年から第一〇回の支払い年である昭和五四年まで、八回にわたり、毎年、一二月三一日までにそれぞれ金五〇万円を支払うことを求める。
二 請求原因に対する答弁
全部認める。
三 抗弁
1 本件保険契約の普通保険約款第二八条第一項には保険契約者または被保険者が、保険契約申込みの際、悪意または重大な過失によって重要な事実を告げなかったか、または重要な事項につき真実でないことを告げた場合には、被告は、保険契約を解除できる旨定められている。
2 右大木静子は、かねて気管支喘息の既往症があり、昭和四五年の春以前から、病状が悪化し、気管支喘息重積症として時々激しい発作を起して投薬や注射等の医師の治療を受けていたので、本件保険契約締結の際、右事実につき、被告に対して告知する義務があったにも拘らず、それに違反して、右事実を被告に対して告知しなかった。
3 被告は、右静子の相続人として本件契約の当事者の地位を承継した原告に対して、昭和四五年一二月二四日、右告知義務違反を理由として本件保険契約を解除する旨意思表示した。
四 抗弁に対する答弁
2の事実は否認する。
第三証拠≪省略≫
理由
一 請求原因事実については、当事者間に争いがない。
二 抗弁について
1 本件保険契約の普通保険約款第二八条第一項に抗弁1掲記の事項が定められていることは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。したがって、右約款の規定によれば、保険契約の申込をする際、保険契約者または被保険者において、既往症その他の重要な事実を、被告に対して告知する契約上の義務を負っているものと解すべきである。
2 ≪証拠省略≫を総合すると、大木静子は、昭和三五年頃より気管支喘息症の持病があったこと、最近では、昭和四五年六月二六日から、宇井潤一郎医師により右気管支喘息症の治療を受け、その間、同年七月一日には右喘息症の発作で呼吸困難を起すなど症状がかなり重かったこと、その後さらにその症状が悪化し、同年一一月一一日、気管支喘息重積症により死亡したこと(この死亡の事実は当事者間に争いがない)が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
右の事実によれば、本件保険契約締結の当時大木静子が気管支喘息症に罹患していた事実は、前掲約款第二八条にいう重要な事実であり、静子には、右事実を被告に告知する義務があったものと認めるのが相当である。
次に≪証拠省略≫を総合すれば、大木静子が、同年七月六日、本件保険契約を締結するに先だち、被告の診査医である鈴木盛の診査を受けた際右医師の問診に対して既往症はないと答え、気管支喘息症罹患の事実を告知しなかったことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。さらに≪証拠省略≫によれば、本件保険契約の成立直後、被告は、大木静子に対し、診査医の受診者告知書の写しを送付し、告知事項の内容に告知洩れや誤りがないかどうかの問い合わせをした際にも、静子は、被告に対してなんらの回答もしなかったことが認められる。そして、これらの事実からすると、大木静子には、前記重要な事実を被告に告知しなかったことにつき、故意又は重大な過失があったものと推認するに難くない。
3 抗弁3の事実は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきところ、以上に判示の事実によれば、本件生命保険契約は、前掲約款第二八条に基づく被告の解除の意思表示により、昭和四五年一二月二四日、有効に解除されたものと解すべきである。
三 結論
以上の事実によれば、原告の被告に対する本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 井口牧郎)